歯科医師の過剰問題と若手歯科医師の生き残りについて

歯科医師の過剰問題と若手歯科医師の生き残りについて

歯科医師の過剰問題とは

最近、テレビなどのメディアで歯科医師の過剰問題が取り沙汰されています。その数の多さは、医科の診療科全ての医師を養成する医学部の定員が約9,000人、歯学部単独の定員が約2,500人という数字でも見て取れます。平成22年度の調査で歯科医師の数は10万人を突破したことが分かりました。医師の数が増加傾向ということは患者にとってはいいかもしれません。しかし、受診患者数が減少し、さらに保険点数の引き下げで、歯科医院の競争が悪化するなど、医師数の増加は悪影響を及ぼしています。歯科医院の中では経営状況が悪くなり、廃業せざるを得ないという医院も増えています。特に競争が激しい東京などは、地方より早いスピードで廃業する医院が増加中です。2011年の全国統計では、コンビニエンスストア店舗数より1.6倍歯科医院が多いという調査結果となっています。開業医は経営悪化の対策で、日曜日に診療を行ったり、深夜に診療を行ったりするなど、様々な工夫を凝らしている所があるほどです。日本政府は歯科医師の数自体を減らすために、国家試験の合格基準を吊り上げるなどの対策に乗り出しました。これが歯科医師の過剰問題の現状です。

歯科医師の過剰問題が起こったわけ

歯科医師の過剰問題の経緯は、ただ多すぎるという単純な理由ではなく様々な事情があります。それは少し昔にさかのぼります。1960年当時、虫歯が社会問題視されていて歯科の治療の普及のために、国で歯学部の新設を推進したという経緯があります。その当時は合計7校の東京歯科大学・日本歯科大学・日本大学・大阪歯科大学・九州歯科大学・東京医科歯科大学・大阪大学しか、歯科医師を養成する大学はありませんでした。5年後には6校、さらに20年後には16校に歯学部が増設されて、医師を養成する大学が充実してきました。充実してきたことはいいのですが、大学側は経営を圧迫するという理由で、入学定員を減らしていないことが多いです。結局それが歯科医師の過剰問題の原因とも言われています。国では歯学部の定員を減らすことを進め、歯科医師の国家試験の難易度が上げ、合格率を下げることで、過剰となった医師数を調整しようとしています。しかし、国が思ったように進んでいないことが現状で、国が目指す歯科医師数を維持できる合格者数より多い数字となっています。まだまだこの問題が解消されるには時間がかかりそうです。

歯科医師の過剰問題で生まれた問題点とは

患者さん側からは歯科医院が多いことは大した問題にはなりませんが、歯科医師を養成する大学にとっては大問題になっています。それは歯科医師国家試験の合格率が低いと国からの補助金が減らされてしまうからです。特に私立大学では血のにじむような努力をしていて、合格率を上げるためにわざと留年させて調整するということもしています。最近、留年率は高くなっているということは、合格率を調整したい私立大学のせいとも言えます。大学によっては定員が不足すると収入が減ってしまうので、進級試験の難易度を上げて留年させて収入を補充するという対策をしている所もあるそうです。こういった大学での問題が発生していることに加え、歯科医師の高年齢化も問題となっています。ドイツでは定年制が導入されていますが、日本では歯科医師の定年がないため、高齢になってもずっと診療を続けている医師もいて、若い医師が中々出てこないという悪循環に陥っています。そのため歯科医師の現場では定年制を導入することが必要だという意見も上がっています。医師数過剰は1つの問題から、新しい問題を増やしていて、早急に解決する対策が求められています。

歯科医師から見た過剰問題

過剰問題は歯科医師側から考えても切実な問題となっています。派手な暮らしぶりで、収入が多いイメージが強いことで歯科医師を選ぶ方もいると思いますが、収入が多いという医師は本当にわずかだという現実があります。それは1ヶ月あたりの医院の儲けの平均で分かります。平均値は110万円~120万円で、年収に換算すると1,000万円ほどです。儲けから税金・賃料・借入返済金を差し引くと、生活費は多いとは言えません。開業医するとなれば検査機器や医療機器が必要になり、開業資金がかなりかかります。開業資金をローンで借りた場合、毎月返済するために病院運営を軌道に乗せなければという重圧があります。開業して軌道に乗っても、中年期以降は細かい作業や、かがむ姿勢を取るため腰や肩へ強い負担がかかることと、切削器具の粉塵の影響で、中年期以降は仕事量が落ち込むというデータもあります。こんな厳しい状況があるということが分かり、歯学部入学者は減少傾向にあります。2009年の入学試験では、前年と比較して、私立歯科大の受験者数は、約2,800人減少と約35%もの受験生が減りました。そのため私立歯科大は定員割れが起きています。

過剰問題を解決する対策とは

過剰問題を解決するために国家試験の合格者数の調整を行っているものの、まだまだ結果が出ていません。それは入学定員を20%削減する方針が政府から出されたことに関連しています。1986年に定員削減を打ち出し、1989年には国立大学も私立大学も目標を達成しています。このデータを見ると順調に解決へと向かっているように見えます。しかし、国が定員数削減をさらに10%という数字を打ち出した結果、私立大学が経営悪化を懸念して、反発しているため、過剰問題の解決には至っていません。私立大学の収入源の内訳で多い受験料は、減ってしまえば最悪の場合、経営悪化につながってしまうからです。ちなみに歯科以外の医師は不足がささやかれていますが、国家試験の合格率は89%です。それに対して歯科医師は60~70%の合格率で、一般的な医師との差を見てみるとよくわかります。歯科医師の年齢層を見てみると全体の半数近くが、30~40代の世代でいわゆる働き盛りの世代です。つまり30~40代が活躍する今後10年は、供給過剰な状態を続くと予想されています。結果的に過剰問題をもっと早くスマートに解決することは難しいと言えます。

若手歯科医師が生き残るためには

歯科医師過剰問題が起こったことにより、若手歯科医師が生き残るためには、大変な努力が必要になります。経営手腕はもちろん、将来どのような形で歯科医師人生を進んでいきたいかということも重要です。選択肢としては開業する、実家の歯科医院を継承する、勤務医として長期的に働きたい、女性の歯科医師の場合、分院長を目指すなどという選択肢があります。その選択肢を選ぶ前に重要なことは、どれだけ情報をチェックしたかです。開業する・実家の歯科医院を継承する場合は開業の現実を知っておくことは重要です。医師が増加していることに対して、人口のピークは2010年という事実があります。人口減少は少子高齢化という言葉でも感じることができます。次に開業した後の月収をチェックすると、2007年の歯科白書では5つのブロックに分けた平均が載っています。0~20%が15.7万円、20~40%が76.3万円、40~60%が109.9万円、60~80%が153万円、80~100%が260.9万円という結果です。人数的に多い中央値は103万円となり、多いような気がしますが、地域によって厳しい現状もあるので、安心はできません。

将来を見すえて行動する

若手で歯科業界で生きるには学生のうちから将来を考えて行動することが必要です。将来、開業したい・医院を継承したい・勤務医として働きたいと自分の思い描くビジョンを具体的にして、学生のうちに知識や経験を身につけておかなければなりません。開業する予定がなくても、知っておきたい歯科医院の経営の仕方ですが、残念ながら大学ではそういった経営の授業はありません。経営する側になってから経営の方法を学んでいたのでは遅いので、学生のうちに経営について勉強することをおすすめします。また、忘れてはならないことは、歯科医院は顧客満足度が重要です。歯科医院の数が膨大で過剰な今、患者さんから選ばれる魅力的な歯科を目指すには、患者さんの満足度がカギとなります。そのため経営面の知識や経験だけでなく、接客サービスの知識や経験があった方が有利と言えるでしょう。口下手な人は、スムーズに話ができるように、接客のアルバイトをしてみる方法や、幅広い年齢層の方とふれあうようにしてみる方法など、学生でもできることを模索してみてください。具体的に学生のうちからやっておくといいものは、マーケティングとスタッフマネジメントです。

歯科医院のマーケティング

マーケティングは顧客が求める商品やサービスを探るという意味ですが、歯科医院の運営にも重要なキーワードとなっています。歯科医院のお客様、つまり患者さんですが、5つのピラミッドに分けることができます。底辺は潜在患者さんで、来院する可能性はあるけれど医院のことは知らず、知っていても興味がない人です。次は見込み患者さんで、医院を知っていて行きたいと思っているが来院したことがない人です。次は新規患者さん、ファン患者さんで医院のやり方と考え方に共感していて、医院のことが好きで周囲の人達に医院の良さを伝えてくれる、熱心な患者さんです。最後は自費診療を受ける自費患者さんが頂点に位置しています。儲かる歯科医院にするためには自費患者さんを増やせばいいと思ってしまいがちですが、見込み患者さんを増やした方が新規患者さんが増えます。歯科医院を運営したい場合は、この患者さんがどこに位置する患者さんで、どのくらいいるのかを把握しておくことがマーケティングとなります。マーケティングが成功しても、電話がつながらない・予約がかなり先にしか取れないなど利便性が悪ければ意味がないので、やることはかなり多いと言えるでしょう。

歯科医院のスタッフマネジメント

患者さんに満足してもらえても、歯科医院の中で働くスタッフのマネジメントができていないとなると、運営はうまくいかなくなります。とにかく人材は重要で、歯科は患者さん1人を診るだけでも時間がかかり、院長ですら1日で診られる患者数は30人ほどと言われています。医師1人では治療は難しく、アシスタントが必ず必要になります。スムーズに医院をまわすためには、院長・1日20人診察できる勤務医2人・歯科衛生士が3人・歯科助手が5人は必要です。これだけの人を雇えばうまくいくだろうと考えてしまいますが、スタッフのバランスが悪ければ、何らかの問題が発生します。スタッフは患者さんと同じように、潜在スタッフ・見込みスタッフ・新人スタッフ・中堅スタッフ・幹部スタッフに分けることができます。医院の中に新人が多ければ育成することに時間がかかり、大変だと感じます。また歯科業界全体で言えることは女性スタッフが占める割合が高いので、結婚・妊娠・出産で雇用できなくなることを考えて採用をしなければなりません。若手歯科医師で勤務している時に、勤務先の医院のスタッフを見て、バランスがいいか見ると開業する時に役に立つでしょう。

歯科医院では採用が重要

患者さんに選ばれる医院になるためには、スムーズな運営ができるスタッフの採用が重要です。多くの歯科医師は、働きたい人を求人広告で募集すればいい人材が採用できると勘違いしています。不景気な時代はいい人材が採用できたケースが多かったですが、最近はいい人材を集めることが難しい現状です。猫の手も借りたいと思って、いい人材でもないのに採用してしまえば医院の中の人間関係が最悪になっていることもあります。いい人材を集めるためには、求人にお金を掛けることはもちろんですが、潜在的なスタッフを増やしていくことが重要です。潜在的なスタッフとは、いつか転職してこの医院で働きたいと考えている人のことを意味しています。潜在スタッフを増やすためには医院の魅力を外に発信していくことになります。医院のホームページでコラムやブログを掲載する、FacebookなどのSNSで情報公開するなど、様々な方法があります。短い時間で効果は出ないかもしれませんが、長期的にすることで、この医院はいいという印象を残しやすくなります。

若手女性歯科医師が成功するためには

歯科大学生の4割~5割は女性が占めていることから、女性歯科医師が増えていることが分かります。女性歯科医師として人生を歩みたいと考えているなら、知っておきたい情報を紹介します。まず、言えることは男性歯科医師よりも、女性歯科医師は結婚・出産・育児のイベントがあるため、成功することが難しいということです。その前に結婚することが難しい、出産と育児などプライベートと仕事のキャリアアップを同時にすることはかなり難しい、開業医の場合は医師としても経営者として勉強も仕事も多忙という現実があります。女性歯科医師がキャリアアップすることで、レベルが下の人の価値観とは合わなくなり、結婚が難しくなります。結婚して妊娠を経て出産・育児した場合、プライベートが子育てで忙しくなり、仕事の勉強や研修に割ける時間が少なくなります。つまり同時にすることが至難の業になるというわけです。成功するためには経営者の勉強を早期にする、働ける環境を整えておく、家族がいても仕事を続けられるようにしておく、この3つを準備してみてください。

歯科医師は他の診療科より特殊な対策が必要

歯科医院の過剰問題がある歯科業界は、他の診療科の病院と違って、特別な対策を練っておく必要があります。魅力的な選ばれる歯科医院になるための努力をすることはもちろん、歯科医療全体の将来を考えて対策をしておかなければなりません。これは若手関係なく、実践すれば選ばれる医院にすることができるはずです。今現在は競争が激しくなり、どこも経営が苦しい現状ですが、10年後は医院が大規模になり保険診療が効率化され、在宅医療や訪問診療をメインにする歯科が現れることや、予防歯科で保険制度を使ったメインテナンスをメインにした経営をする医院が現れると予想されています。これは超高齢社会を迎えることが予想されることが大きく影響を受けています。高齢者は元気な方とそうでない方に極端に分かれますが、そこで考えられる歯科医院は高度な医療を提供する医院にするのか、通院が困難な方の自宅を訪問して診療する医院にするのかということになります。とにかく将来どんな患者さんが増えると分っていれば、若手のうちから具体的な準備はできるはずです。他の診療科と違うことを念頭に置いてどんな未来を実現したいのか考えてみてください。